右のほうがうまそうに見える

「ビュリダンのロバ」ーーーと呼ばれる有名な話がある。
十四世紀、フランスの哲学者ビュリダンがつくった話だとされる。
飢えたロバがいて、彼は幸いにも二つの乾し草の山を見つけた。
ところがロバは、どちらの乾し草を食えばいいか、迷いはじめた。左
の乾し草を食おうと歩きはじめると。
右に行くと左がうまそうに見える。迷いに迷ったロバは翌朝、二つ
の乾し草の中間で餓死していた。---そういう話である。
だが、わたしたちはこの話を笑えない。われわれ人間だって、こ
のロバに近い愚行をやっているからである。たとえば、大学生が、
五月、六月になって迷いはじめる。入学した大学をつずけたほうが
いいか、それtも退学して他の大学を再受験したほうがよいか……と。
あるいはサラリーマンも、転職しようかどうしようかと迷い悩む。
そんなとき、わたしが相談を受ければ、

「じゃあ、サイコロで決めるといい。丁が出たら転職、半が出た
ら残留と……」
と忠告する。そうすると、たいていの人が不まじめだと怒りはじ
める。
しかし、わたしは冗談を言っているのではない。左か右かに迷っ
ていることは、左でもいいし、右でもいいからである。左だと困るの
であれば、人間は右か左かに迷わない。さっさと、右を選んでいる
はずだ。
したがって、迷っているというそのことが、どちらでもいいことを意
味しているのだから、デタラメに決定したほうのがいいのである。
そして、決めた道を迷わずに歩くべきだ。それが、わたしは
「ビュリダンのロバ」の教訓だと思うが、ちがうかしら……。
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